フィリピン コーヒー深掘り:4つの種を育てる国と、希少なリベリカ「バラコ」の物語
かつての輸出大国、サビ病が変えた歴史、そして世界が忘れた第4の種を今に伝える島々
執筆 · Coffee Info 編集部
フィリピンは、アラビカ・ロブスタに加え、世界的に希少な「リベリカ種(バラコ)」を商業的に育てる珍しい国です。19世紀には世界有数のコーヒー輸出国でしたが、サビ病で産業が壊滅した歴史を持ちます。力強いバラコ、高地のスペシャルティアラビカ、そして「コーヒーを飲む国」としての復興——東南アジアのもう一つのコーヒー大国の物語を解き明かします。
目次 · 10 章
コーヒーの世界地図でフィリピンの名を聞くことは多くありません。けれどこの島国は、コーヒー史の中で特異な位置を占めています。世界でも珍しく、アラビカ・ロブスタに加えて「リベリカ種」——現地でバラコ(Barako)と呼ばれる希少な種——を商業的に育てる国であり、かつては世界有数のコーヒー輸出大国でもありました。なぜそんな国が今は無名なのか。4つの種、サビ病が変えた歴史、そして復興の物語をたどります。

なぜフィリピンは特別なのか
- 4つの種を育てる: アラビカ・ロブスタ・リベリカ・エクセルサの4種を商業栽培する世界的にも珍しい国
- 希少なバラコ: リベリカ種「バラコ」の数少ない産地。力強く独特な風味で国民的に愛される
- かつての輸出大国: 19世紀には世界有数のコーヒー輸出国だった歴史を持つ
- サビ病の記憶: 1880年代末のサビ病で産業が壊滅。今に続く浮き沈みの原点
- 「飲む国」へ: 現在は生産より消費が上回る純輸入国。インスタント文化が根づく
コーヒーの4大栽培種のうち、世界の流通はアラビカ(約6割)とロブスタ(約4割)でほぼ占められ、リベリカとエクセルサは合わせて世界生産の1%にも満たないとされます。フィリピンは、そのリベリカ(バラコ)を文化として残してきた数少ない国。品種全体の系統はコーヒー品種ガイドで整理しています。
4つの種を育てる国
フィリピンのコーヒーを語るうえで欠かせないのが、栽培される種の多様さです。標高や島の気候に応じて、4つの異なるコーヒー種が育てられています。これは世界的に見ても極めて珍しいことです。
- アラビカ: コルディリェラなど北部ルソンの高地。華やかでクリーン。スペシャルティの主役
- ロブスタ: 低地で広く栽培。力強い苦味でインスタントや国内消費の主力
- リベリカ(バラコ): カビテ・バタンガスが本場。大きな豆と力強く独特な風味
- エクセルサ: リベリカの近縁種とされる。フルーティで酸のある個性。ブレンドに深みを加える
バラコ(リベリカ)——希少な「マッチョ」コーヒー
フィリピンを象徴するのが、リベリカ種の「バラコ(Barako)」です。バラコとはタガログ語で「雄」「マッチョ」を意味する言葉。その名の通り、力強く野性的な風味が特徴です。豆はアラビカの倍以上もある大粒で、独特の形をしています。ウッディでスパイシー、ジャックフルーツや花、ダークチョコレートを思わせる強烈な香りは、一度知ると忘れられません。
バラコはバタンガス州やカビテ州で古くから栽培され、地元では濃く淹れて砂糖を加えて飲むのが定番です。生産量はごくわずかで、近年は絶滅が危惧されるほど。希少性から保護・復興の取り組みも進む、フィリピンの食文化を象徴する一杯です。
かつての輸出大国——サビ病が変えた歴史
今では意外に思えますが、フィリピンは19世紀に世界有数のコーヒー輸出国でした。スペイン統治下の1700年代に栽培が始まり、特にバタンガス州リパは「コーヒーの都」として栄えました。1880年代、ブラジルの不作や他産地のサビ病禍が重なり、フィリピンは一時、世界第4位の輸出国にまで上り詰めたとされます。しかし1889年頃、サビ病(コーヒー葉枯病)がフィリピンにも到達し、わずか数年でアラビカ農園の大半が壊滅。産業は急速に衰退しました。この打撃から、フィリピンのコーヒーは完全には立ち直れていません。

味のプロファイル
フィリピンのコーヒーは、栽培される種によって味わいが大きく異なります。ひとくくりにできないのが、この国の面白さです。
- バラコ(リベリカ): ウッディ・スパイシー・ジャックフルーツ・花。力強く野性的で唯一無二
- 高地アラビカ: チョコレート・ナッツ・柑橘。クリーンでバランスのよい飲みやすさ
- ロブスタ: 力強い苦味とコク。インスタントや濃いミルクコーヒーに向く
- エクセルサ: フルーティで酸があり、リベリカより軽やか。ブレンドの隠し味に
主要産地
フィリピンのコーヒーは、ルソン島北部の高地から南部ミンダナオ島まで、広い範囲で栽培されています。種と産地が結びついているのも特徴です。
- コルディリェラ/ベンゲット(ルソン北部): 標高の高い高地アラビカ。サガダコーヒーで知られる
- カビテ/バタンガス(ルソン南部): リベリカ「バラコ」の本場。歴史的なコーヒーの都リパを擁する
- ミンダナオ/ブキドノン(南部): フィリピン最大の産地。アポ山麓でアラビカとロブスタを産する
- スルタン・クダラットなど: ミンダナオのロブスタ主産地
産地ごとの個性はフィリピン産地ページでも地域別に整理しています。高地のアラビカと低地のバラコ・ロブスタでは、まるで別の国のような味の違いがあります。
精製と品種
- 精製: アラビカはウォッシュトが中心。バラコ・ロブスタはナチュラルも多い
- 品種: アラビカはティピカやブルボン系。リベリカはバラコ、ロブスタは在来種が中心
- 小農中心: 多くが小規模農家による栽培。協同組合やスペシャルティの取り組みが品質を底上げ
- 課題: 高齢化や低い生産性が課題。一方で若い世代やカフェ文化が復興を後押し
「カペ・アラミド」——シベットコーヒー
フィリピンは、インドネシアの「コピ・ルアク」と同様のシベットコーヒー「カペ・アラミド(Kape Alamid)」の産地でもあります。アラミドとはジャコウネコのこと。野生のジャコウネコが食べて排泄したコーヒー豆を集めて精製したもので、非常に高価な希少品として知られます。
ただしシベットコーヒーには、動物福祉の懸念がつきまといます。需要の高まりとともに、ジャコウネコを劣悪な環境で飼育・強制給餌する事例が問題視されてきました。購入するなら「野生(wild-sourced)」を明示し、動物福祉に配慮した信頼できる業者を選ぶことが大切です。同様の注意点はベトナムのイタチコーヒーでも触れています。
おすすめの淹れ方
フィリピンのコーヒーは種によって淹れ方の相性が変わります。高地アラビカはクリーンに、バラコは力強さを活かして淹れるのがコツです。
V60で淹れる基本比率(1:16・アラビカ向け)
豆 15g / 湯 240g
- 高地アラビカ: 中煎り・ペーパードリップでクリーンに。チョコと柑橘の甘さを素直に
- バラコ(リベリカ): 中深煎りで濃いめに。地元流に砂糖を加えても個性が映える
- ロブスタ: 濃く淹れてミルクと。インスタントや濃縮系にも向く
- 湯温: アラビカは90〜93℃、バラコ・ロブスタはやや高めでもよい
よくある質問
バラコ(リベリカ)はどんな味?
ウッディでスパイシー、ジャックフルーツや花、ダークチョコレートを思わせる力強く野性的な風味です。アラビカの華やかさやロブスタの苦味とも違う、独特の個性を持ちます。豆はアラビカの倍以上の大粒。好みは分かれますが、一度は試す価値のある希少なコーヒーです。
なぜフィリピンは無名になったの?
19世紀末のサビ病(コーヒー葉枯病)で、世界有数だった生産が壊滅したことが大きな転機でした。その後も自然災害や生産性の課題が重なり、輸出国から純輸入国(消費の方が多い国)へと変わりました。インスタントコーヒーの消費は多い一方、生産は伸び悩み、単一産地としての知名度は低いままでした。近年はスペシャルティの復興が進んでいます。
フィリピンのコーヒーはどこで買える?
スペシャルティ系のロースターや通販で、コルディリェラのアラビカやバラコ(リベリカ)が少量流通しています。希少なため一般的ではありませんが、「フィリピン バラコ」「フィリピン アラビカ サガダ」などで探すと見つかります。一般的なアラビカとは全く違う体験として、バラコは特におすすめです。
フィリピンは、コーヒーの「もう一つの可能性」を今に伝える国です。世界が忘れかけた第4の種バラコ、サビ病から立ち上がろうとする高地のアラビカ、そして「飲む国」としての厚い文化。派手な名声はなくとも、その多様さと歴史の深さは、コーヒー好きの探究心を確かに刺激します。次にフィリピン産を見かけたら、それがどの種なのか、ラベルをのぞいてみてください。
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