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生豆(なままめ)を口に入れても、私たちの知るコーヒーの味はしません。青くさく、硬く、豆というより乾いた木の実です。あの香ばしさ、深い色、複雑な苦味と甘みは、すべて「焙煎」という一度の加熱でつくられます。焙煎とは、200℃前後の熱で数百種類の化学反応を同時に起こし、無味無臭に近い生豆を「飲み物の素」へ変える調理です。この記事では、焙煎中に豆の中で何が起きているのか——乾燥・メイラード反応・発達という3つのフェーズ、1ハゼと2ハゼの正体、焙煎度と味の関係、そして焙煎欠点までを、化学と物理の視点でたどります。焙煎を理解すると、焙煎度の表示も酸味の出方も、まったく違って見えてきます。
スペシャルティコーヒーの棚には、「ゲイシャ」「ブルボン」「SL28」「パカマラ」といった、産地名でも焙煎度でもない言葉が並んでいます。これらはすべて「品種」——リンゴに「ふじ」があり、ブドウに「シャルドネ」があるのと同じで、コーヒーにも味の設計図となる品種があります。しかも驚くべきことに、世界中で飲まれているアラビカ種のほとんどは、たった2つの祖先——ティピカとブルボン——から枝分かれした「家系図」の子孫なのです。この記事では、アラビカ品種の系統樹を、突然変異・交配・病気との戦いという3つの力を軸にたどります。品種を知ると、テロワールや焙煎と並ぶ「味の第3の設計図」が見えてきます。
1888年、上野に日本最初の喫茶店「可否茶館」が生まれてから138年。銀座のカフェー、名曲喫茶とジャズ喫茶、ピーク時15万軒を超えた黄金時代、ネルドリップと深煎りの職人文化——喫茶店は、日本が世界のどことも違うコーヒー文化を育てた場所です。そしていま、その文化は「KISSATEN」として世界のスペシャルティコーヒーに影響を与え、国内では純喫茶ブームとして再評価されています。一杯のコーヒーの向こうにある、日本の喫茶店138年の物語をたどります。