コーヒーの「カッピング」入門:プロの評価法で自分の味覚を鍛える
スプーンですすって採点する。フレーバーを言葉にし、好みの輪郭をつかむ方法
執筆 · Coffee Info 編集部
カッピングは、ロースターやバイヤー、Qグレーダーが世界共通の手順でコーヒーを評価・採点する「テイスティングの共通言語」です。実は特別な道具はほとんどいらず、自宅でも実践できます。同じ条件で複数の豆を横並びにすると、違いが驚くほど言葉になり、[自分の好み](/articles/find-your-taste)の輪郭が見えてくる。SCA式の標準手順から、すするコツ、フレーバーの言語化、自宅向けの簡易版まで、味覚を鍛えるカッピングを一から解説します。
目次 · 9 章
「このコーヒー、おいしい」——でも、何がどうおいしいのかを言葉にするのは難しいもの。その壁を越える方法が「カッピング(cupping)」です。ロースターやバイヤー、訓練を受けたQグレーダーが、世界共通の手順でコーヒーを評価・採点する、いわばテイスティングの共通言語。特別な道具はほとんど不要で、自宅でも実践できます。同じ条件で複数の豆を並べると、味の違いが驚くほどはっきり言葉になり、自分の好みの輪郭がつかめてきます。

カッピングとは——プロが使う共通言語
- 目的: コーヒーの品質を、誰が評価しても比較できる形で測る標準手順
- 使う人: ロースター、生豆バイヤー、Qグレーダー、品評会の審査員
- 強み: 同じ粉量・湯量・湯温・時間で淹れるから、豆そのものの差が浮き彫りになる
- 副産物: 続けるほど味の語彙が増え、自分の好みと弱点が見えてくる
カッピングの世界標準はSCA(スペシャルティコーヒー協会)のプロトコル。100点満点で採点し、80点以上が「スペシャルティ」とされます。点数の背後にあるのが、この記事で紹介する手順です。採点の仕組みはスペシャルティの定義とグレーディングでも詳しく扱っています。
なぜ自宅でやる価値があるのか
ふだんの一杯は、淹れ方の上手・下手や器具のクセが混ざって、豆そのものの味が見えにくいもの。カッピングは条件を完全に固定するので、「この豆はどういう個性か」をフェアに比べられます。3〜4種を並べて飲むうちに、自分が酸味好きなのか、コク好きなのかといった好みの輪郭が驚くほど明確になります。
- 味覚トレーニング: 横並び比較は、1種ずつ飲むより違いが何倍も分かりやすい
- フェアな比較: 淹れ方の差を排除し、豆の個性だけを見られる
- 好みの発見: 産地・精製・焙煎度のどれが自分に合うかが見えてくる
- 買い物上手に: 「ラベルの言葉」と実際の味が結びつくようになる
用意するもの
- 同じ形・容量のカップかボウルを複数(評価する豆の数ぶん)
- スプーン(カッピングスプーンが理想だが、丸い大さじでも可)
- スケールとグラインダー、ケトル、温度計(あれば)
- すすいだスプーンを置く湯、味をリセットする水
- メモ(香り・酸味・甘み・ボディ・後味を書き留める)
標準的な手順(SCA式)
基本の比率は「粉8.25g+湯150ml(約1:18)」。粉は粗め(粗塩くらい)に挽き、湯温は約93℃。複数のボウルを用意し、同じ条件で淹れて比べます。まずは流れを覚えましょう。
カッピング標準(約1:18・1ボウル分)
豆 8g / 湯 150g
1. 乾いた粉の香り(フレグランス)
湯を注ぐ前に、挽いた粉の香りを嗅ぎます。これを「フレグランス」と呼びます。フルーティーか、ナッティか、香ばしいか——最初の印象をメモしておきましょう。複数のボウルを並べると、粉の段階ですでに違いがあるのが分かります。
2. 湯を注いで「クラスト」の香り(アロマ)
93℃の湯を粉が浸るまで一気に注ぎます。すると表面に粉が層(クラスト=かさぶた)を作ります。湯を含んで立ちのぼる香りが「アロマ」。鼻を近づけて、湿った状態の香りを確かめます。
3. 4分後に「ブレイク」する
4分待ったら、スプーンでクラストを3回ほど奥へ押して崩します(ブレイク)。このとき一気に立ちのぼる香りが、最も豊かな瞬間。鼻を近づけて深く嗅ぎます。崩したら、表面に浮いたアク(泡と粉)をスプーン2本で取り除きます。
4. 温度が下がったら「すする」
少し冷めて70℃前後になったら、スプーンで一口すくい、空気と一緒に「ズズッ」と勢いよくすすります。液体を口の中で霧状に広げるのがポイント。舌全体と鼻の奥(レトロネーザル)で、酸味・甘み・ボディ・フレーバー・後味を確かめます。
5. 冷めながら何度も評価する
コーヒーは温度で表情が変わります。熱いうちは酸が明るく、冷めるにつれて甘みや欠点がはっきりしてきます。同じボウルを温かい時・ぬるい時・冷めた時の3回すすって評価すると、豆の本性がよく見えます。
「すする」のには理由があります。霧状にして口中に広げることで舌の隅々に届き、同時に鼻の奥へ香りが抜ける(レトロネーザル嗅覚)。これがフレーバーを立体的に捉えるコツ。最初は服を汚しがちなので、シンクの前で練習しましょう。
何を評価するのか——SCAの評価項目
- フレグランス/アロマ: 乾いた粉と湿った粉の香り
- フレーバー: 口に含んだときの総合的な風味
- アフターテイスト(後味): 飲み込んだ後に残る余韻の質と長さ
- アシディティ(酸味): 明るさ・質。量より「質」を見る
- ボディ: 口当たりの重さ・質感
- バランス: 各要素の調和
- スイートネス(甘み)/クリーンカップ/ユニフォーミティ(均一性)/オーバーオール
SCA方式ではこれらを点数化し、合計100点満点で評価します。80点以上がスペシャルティの目安。家庭では厳密な採点より、各項目を「強い・弱い」「好き・苦手」でメモするだけでも十分に役立ちます。
フレーバーを言葉にする——フレーバーホイール
感じた風味を言葉にするのは、慣れるまで難しいもの。そこで使うのが「フレーバーホイール」です。中心の大分類(フルーティー/フローラル/ナッティ・カカオ/スパイス/甘い…)から外側の具体語(ベリー、柑橘、ジャスミン、アーモンド、チョコ…)へとたどると、漠然とした印象が言葉になります。当サイトのフレーバーホイールや世界のコーヒー風味データも語彙の手がかりになります。
- フルーティー: ベリー、柑橘、ストーンフルーツ、トロピカル
- フローラル: ジャスミン、紅茶、カモミール
- ナッティ/カカオ: アーモンド、ヘーゼルナッツ、チョコ、ココア
- スパイス/甘い: シナモン、黒糖、ハチミツ、メープル
- 注意: 「正解」を当てる遊びではない。自分が感じた言葉でよい
自宅向け・かんたんカッピング(採点なし)
- 3〜4種の豆を用意(産地や精製が違うものだと差が分かりやすい)
- 同じ粉量・粗さ・湯量・湯温・時間で淹れる(条件を完全に固定)
- できれば誰かにカップを並べ替えてもらい、銘柄を隠して「ブラインド」で
- 香り・酸味・甘み・ボディ・後味をメモし、順位をつける
- 最後に銘柄を答え合わせ。自分の好みの傾向が見えてくる
ブラインド(銘柄を隠す)で行うと、「高い豆だから」「有名産地だから」という先入観(バイアス)が消え、純粋に舌の判断だけが残ります。間に水を飲んで味覚をリセットするのも忘れずに。
よくある失敗と対策
すべて同じ味に感じる
- 対策1: 性格の違う豆を選ぶ(アフリカの浅煎り×中米×深煎りなど)
- 対策2: 温度を変えて何度も飲む。冷めると差が開く
- 対策3: 酸味・甘み・ボディと、一度に1項目だけに集中して比べる
うまくすすれない・むせる
最初は誰でもむせます。スプーンに少量だけ取り、口の手前で空気を吸い込むように「ズッ」と短く吸うのがコツ。霧状にできれば成功です。シンクの前で気楽に練習を重ねれば、数回で慣れます。無理に大きな音を立てる必要はありません。
よくある質問
専用の道具がないと無理?
いいえ。同じ形のカップ(マグや湯のみでも可)を人数分そろえ、丸いスプーンがあれば始められます。大切なのは道具より「条件を完全に揃えること」。粉量・粗さ・湯量・湯温・時間を固定できれば、それで立派なカッピングです。
飲み込む?それとも吐き出す?
プロは一日に何十種も評価するので、カフェインを避けるため吐き出す(スピット)のが普通です。家庭で数種なら、好きにして構いません。飲み込めば後味や余韻まで分かりますし、量が少なければカフェインも気になりません。専用のスピットカップを用意してもよいでしょう。
カッピングと普段の一杯は何が違う?
カッピングは「評価のための淹れ方」で、浸漬式に近い均一な条件で豆の素の姿を見ます。一方ふだんのドリップやエスプレッソは「おいしく飲むための淹れ方」で、器具や技術で味を作り込みます。カッピングで豆の個性を知ってから、ドリップで好みに仕上げる——この往復で、コーヒーの解像度が一気に上がります。
カッピングは、舌のための筋トレのようなものです。最初は違いが分からなくても、続けるうちに「あ、これはベリーだ」「こっちはナッツの甘み」と言葉が追いついてきます。週末に3種を並べるだけでいい。自分の好みを自分の言葉で語れるようになると、コーヒー選びはもっと自由で楽しくなります。
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