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文化9 分で読める2026-06-02

コーヒーの歴史:エチオピアの伝説から「第三の波」まで

ヤギ飼いカルディ、イスラム世界、大航海、そしてスペシャルティ

執筆 · Coffee Info 編集部

一杯のコーヒーには千年の物語があります。エチオピア起源の伝説、イエメンで生まれた飲用文化、ヨーロッパのカフェ、そして3つの「波」まで。いま飲んでいるスペシャルティが、どこから来たのかを辿ります。

目次 · 7
  1. 起源:エチオピアの高原
  2. イエメン:世界初の「飲み物」として
  3. ヨーロッパへ:カフェの誕生
  4. 大航海と植民地:世界へ広がる
  5. 3つの波(Three Waves)
  6. そして今:第四の波へ
  7. 日本のコーヒー史

いまあなたのカップにある一杯は、千年以上の旅の末にたどり着いたものです。原産地の高原から、宗教儀礼、革命のカフェ、植民地のプランテーション、そして現代のスペシャルティへ。コーヒーの歴史をたどると、世界史そのものが見えてきます。

こだわりのコーヒーショップの店内
産地や農園にこだわる現代のカフェ文化は、千年の歴史の最新章にすぎない · Photo by Unsplash

起源:エチオピアの高原

有名なのが、9世紀ごろのヤギ飼いカルディの伝説。赤い実を食べたヤギが元気に飛び跳ねるのを見て、その実の力に気づいた——という物語です。史実かは不明ですが、コーヒーノキ(アラビカ種)の原産地がエチオピア南西部の高原であることは間違いありません。当初は飲み物ではなく、実をすり潰して脂肪と混ぜた“携帯食”として食べられていたと言われます。

イエメン:世界初の「飲み物」として

15世紀、紅海を渡ったイエメンで、コーヒーは焙煎して湯で抽出する「飲み物」になります。スーフィー(イスラム神秘主義者)が夜通しの礼拝で眠気を払うために用いたのが普及のきっかけ。積出港モカ(Mocha)の名は、いまも「モカ」としてコーヒーの代名詞に残っています。当時、苗や生豆の持ち出しは固く禁じられていました。

ヨーロッパへ:カフェの誕生

17世紀、コーヒーはヴェネツィアを経てヨーロッパへ。ロンドンのコーヒーハウスは、わずかな入店料で知識人が議論を交わす場となり「ペニー大学」と呼ばれました。保険のロイズや株式取引所も、元はコーヒーハウスから生まれています。コーヒーは情報と商売を動かす“社交の燃料”でした。

大航海と植民地:世界へ広がる

やがてオランダがジャワ島で、フランスがカリブ海のマルティニーク島で栽培を始めます。18世紀、たった数本の苗木が中南米へ渡り、ブラジルやコロンビアの広大なコーヒー帯の礎になりました。インド洋のブルボン島(現レユニオン)で生まれた「ブルボン種」も、この時代に世界へ拡散します。

中南米で栽培されるアラビカの多くは、わずか数本の苗木の子孫。だから遺伝的多様性が乏しく、サビ病などに弱いという課題を今も抱えています。

3つの波(Three Waves)

  • 第一の波(〜1960年代):インスタントと大量消費。「安く・手軽に」が主役で、産地や品質は二の次
  • 第二の波(1970年代〜):スターバックスに代表されるエスプレッソ/カフェ文化。産地名やローストが語られ始める
  • 第三の波(2000年代〜):豆をワインのように扱う時代。農園・品種・精製方法まで遡り、浅煎りとダイレクトトレードが広がる

そして今:第四の波へ

近年は抽出の科学化、嫌気性発酵などの新しい精製、ゲイシャ種の高騰、そして気候変動への対応が焦点です。アラビカの栽培適地は温暖化で縮小すると予測され、サステナビリティと品種改良が業界の最重要テーマになっています。いま飲む一杯は、こうした最前線の上に成り立っています。

日本のコーヒー史

日本人とコーヒーの出会いは江戸期、長崎・出島のオランダ商館でした。明治には「カフェー」が登場し、戦後は喫茶店文化が花開きます。世界初の缶コーヒーが生まれたのも日本(1969年)。2010年代にはサードウェーブが上陸し、いまや自家焙煎店とスペシャルティが全国に広がっています。

一杯のコーヒーは、エチオピアの高原から続く長い物語の“最新ページ”です。次に飲むときは、その背後にある千年の旅に少しだけ思いを馳せてみてください。